今回は医療ミスであったにもかかわらず、遺族に対し賠償金が払われなかったため裁判になった問題を取り上げます。「医師賠償責任保険」のあり方も問われています。
2005年、静岡市清水区の産婦人科での出来事です。中絶手術を受けた際、執刀医のミスによって40代の女性が大量出血で死亡しました。遺族は先月執刀医におよそ9300万円の損害賠償を求め静岡地裁に裁判を起こしました。
原告代理人によると、医師側にミスがあったことはたしかとみられています。なぜ、裁判を起こさなければならなかったのでしょうか?
原告代理人 青山雅幸 弁護士に聞くと「今回のケースは医療側の過失が重大、ある程度明白。過失を犯した医師本人が警察に通報していることからも・・・ある程度の過失があることは医師側も認めている。であるにも関わらず、保険適用がされない。医師の損害賠償責任保険が適用されないという事で、提訴に踏み切らざるを得なかった。ということから非常にレアなケースだと思う。」と話します。
訴えられているのは静岡市清水区の産婦人科です。すでに2年前に廃業しています。病院側は「遺族のためにできることはしたい」と話しているそうです。賠償金が支払われることはなく、女性の死亡から2年以上も経過しました。医療ミスに備え医者が加入する医師賠償責任保険という制度があります。この病院も加入していました。しかし、保険会社に適用を申請する医師会がそれを拒否したため、病院に保険金が払われず、遺族にも賠償金が支払われないという事態になりました。なぜ、医師会は保険の適用申請を拒否したのでしょうか?
青山弁護士によると手術は夫婦の医師で行われたのですが、男性医師は本来この手術ができる「母体保護法」の指定医を取り消されていたのです。「指定医ではない男性医師が執刀したことが問題だ」と医師会側は保険適用を拒否しているのです。
代理人 青山弁護士は「今回母体保護法違反という事を理由に医師賠償責任保険を適用できないケースだと言っているが、現実に行為をしている場所には母体保護法指定医がいるわけです。こういった場合に指定医がいるわけですから、医療行為が違法であるという事は考えられない。今回保険適用を拒否した背景には、当該医院と医師会との間にトラブルがあったと仄聞される。そういった医師会との過去のトラブルから保険適用を拒否したとすれば、これはまさに患者不在、被害者不在の事態です。医師同士のトラブルを対患者に持ち込んでいる。」と話します。
「保険適用すべきだ」と訴える青山弁護士に対し、日本医師会は「回答する立場にない」と返答しています。
県医師会もSBSの取材に対し「個別のケースについてはコメントできない」と取材を拒否しています。
今回の裁判からは、医師賠償責任保険のあり方も問われています。
現在の保険のシステムでは被保険者が医者、保険契約者が医師会になっています。契約者である医師会が保険会社に事故の届出をしないと保険が適用されません。
青山弁護士は「被害者はこの契約に関知できない。だから、今回のように保険適用しないとなると医師に私財があればいいけど、なければ泣き寝入りするしかない。システム自体がおかしい。現在の自動車保険のように被害者が直接請求できるような制度にすべき。」と話します。
大切な家族を医療事故で失った遺族に病院と医師会は何ができたのでしょうか。
原告側は医師会の裁判への参加を求めています。今回の事故をみると患者、遺族だけが取り残されているような気がしてなりません。