今週のこれってどうなのは、「非常勤医師」の問題を取り上げます。深刻な医師不足が叫ばれる中、公立病院で非常勤として働く医師の存在が注目されています。いまや非常勤医師なくしては成り立たないと言われる地域医療。しかし、その役割の大きさに対して、「非常勤」であるがゆえの新たな問題が見えてきました。
県立こども病院の小児外科の現場には7人の医師がいます。4人が常勤、そして残る3人が非常勤医師という構成です。一般的に非常勤医師は常勤医師のピンチヒッター、あるいは若い医師が経験を積むためのポジションです。
しかし、ここでは違います。県立こども病院では、重い症状のこどもたちが多くいます。それぞれの患者に主治医はつきますが、7人がチームとして、全ての患者の状態を把握し、治療に参加します。
こどもの検査や治療には大人より多くの人手と時間がかかります。そこに非常勤・常勤の違いはありません。しかし今、「非常勤で働く医師達の勤務状態」が問題として浮上しつつあります。
この病院の非常勤医師は、週におよそ60時間働いていて、休日は月に平均4日ほどです。
ところが、県の規定では「非常勤」である彼らは、最大で週35時間しか働けません。それ以上働いた分の給与は全く支払われません。
医療現場では時間で手術や治療を切り上げることはできないうえ、休日・夜間の救急対応は当たり前です。「35時間」の規定と非常勤医師の働きはかけ離れているのです。
さらに、その高い専門性からも非常勤医師の役割の大きさがわかります。
口から食事をとることができない男の子の手術です。胃に穴を開けて、そこから栄養を取れるようにします。メスを取るスタッフには非常勤の川島医師と松岡医師の姿もあります。
腹部に小型カメラを入れ、拡大した映像を元に施すこの腹腔鏡手術は患者への負担が少ないとされます。一方で、医師には高い技術と経験が求められます。
こども病院ではこの腹腔鏡を使った手術を年間80件ほどしています。県内でこれほどの件数をこなせる病院は他にはありません。
非常勤医師の松岡先生は「非常勤、常勤は関係なく、患者を前にしたらベストを尽くすだけ」と語ります。
そして、県立こども病院小児外科長の漆原先生は「呼び出しで手術をしているとき、僕の目の前で手術を一緒にしている彼ら(非常勤医師)には何の評価もない。一生懸命小児医療に取り組んでいる彼らの努力に報いるだけの評価はあっていいのではないかと思う。彼ら(非常勤医師)3人がいるから今の手術をやっていける。」と語ります。
非常勤の勤務状況が変わってきたのは、こども病院の患者数が急激に増えているからです。
県内の小児科はどの病院も医師が足りません。患者を受け入れきれず、その余波が及んでいます。
また、子ども病院の高度な医療技術を頼ってくる患者もいます。わずか4年でこども病院の小児外科で行われる手術は年間500件ほどから800件近くに増えています。いまや非常勤医師の存在なしではこの外科は回りません。
こうした厳しい環境のもとでも非常勤医師が集まるのは、こども病院ならではの理由があります。
渡辺先生は「常勤とか非常勤という待遇に関係なく、やはり小児科で働くなら一番の技術を学びたいということで来ている。」と話しますが、漆原小児外科長は「ここで働きたいという彼らの気持ちで非常勤医師としてやってくれている。しかし、このままの現状で続けたらそういう人たちが今後集まってこなくなってしまうのではないか」と危惧しています。
この日の患者の手術や検査が全て終わり、夜7時を過ぎてから、今週予定している手術の打ち合わせや症例研究などの会議を全員で行います。
議論は午後10時過ぎまで続きました。
病院側も、非常勤医師の待遇を改善したいと考えてきました。しかし、そこには自治体病院ならではのジレンマがあるといいます。
県立こども病院 吉田病院長は、”院長として、どうにかならないのか?”という質問に対し「管理職として時間の管理を命じることはできるが、この状況で、仕事や手術をするのをやめなさい、とはとてもいえない。彼らが休日に働いていることを知ると、本当に胸が痛む。」と答えました。
また、こども病院の医師は県の職員となるため、病院長の権限で非常勤という待遇を変えたり、超過勤務の手当てを支払うよう制度を変えたりすることはできないというのです。
では、その県はこの問題についてどう考えているのか聞いたところ、「国の法律で常勤と非常勤という分け方しかない。実態に制度が追いついていないというのは感じています。独立法人化で、そのあたりで柔軟性をもたせたい。」と答えました。
県は、来年度からこども病院を含む、県立3病院を独立行政法人化する計画です。それによって、病院側が人事や給与といった決まりを柔軟に変えることができるというのです。
自治体病院の経営に詳しい伊関教授は、独立行政法人化をするにあたって重要なポイントがあるといいます。
「権限をきちっと病院側に渡すべき。誰が、劣悪な環境のもと静岡に残りたいと思いますか?」と話します。
命を守るための現場は今、医師の高い志で支えられています。地域医療を維持していくためには懸命に働く医師達が静岡県に残りたいと感じる環境や制度をきちんと整えていくことが大切なのではないでしょうか?